7月も半ばを過ぎてバカンスで人も少なくなったパリ、そんな夏には日頃の忙しさにかまけてなかなか行けない美術館巡りを計画してみました。
今日はパリの「 ゴブラン織美術館 」をご紹介します。
パリでゴブラン織のタピスリーと言えば、クリュニー美術館のミステリアスな作品「貴婦人と一角獣」が有名ですが、パリ14区イタリア広場近くには400年前に創設されたゴブラン工房があります。
その工房の近くに「ゴブラン・ギャラリー」があり、長期の修復とちりじりになっていた作品の買い戻しを経て2007年に美術館として公開されました。
工房はもともとフランス王家の専属でしたが現在もフランス政府の御用達、一般には公開されていませんが、ギャラリーでは16世紀以降の王家所蔵であったタピスリーを見ることができます。
17世紀の建物を生かした広々とした階段の正面にはタピスリーが飾られています。
ちょうど今はスペイン王室の国宝である「フランドル産のゴブラン・タピスリー展」が開かれていました。
フランドルとは今のベルギーやオランダの地域で、15〜16世紀には世界で最も美しいゴブラン織の生産地で、ヨーロッパ中の王侯貴族の注文を受けていました。
スペインのカール5世、フェリペ2世など代々のスペイン王が愛でたタピスリーの数々の門外不出の作品が、今回初めてフランスで展示される事になったそうです。
聖ジョルジュ(ゲオルギウス)と竜の物語や、キリストとマリアの像など聖書を描いた作品もあり、
また、15世紀の「 地獄と怪物の画家 」ヒエロニムス・ボシュ(Hieronymus Bosch)の幻想的なデザインのタピスリーもありました。
深い宗教心に支えられた近未来的なヒエロニムス・ボシュの画風は、ゴブランにも忠実に再現されていました。
荒れる海獣(でもちょっと笑ってしまうような・・・!)骸骨に痛めつけられる人間たち・・・その横にはクラシックなバラ模様、またその横にはまるで1920年代のキュビズムの画家の描くような虹色の抽象的な模様があります。
そしてタピスリーの合間にはルネサンス初期の貴婦人の絵がかけられていました。
組み合わせた手と目を伏せる表情には、宗教的な意味がふくまれています。
それにしても凝った細工の額の美しさには魅入ってしまいます。
どのタピスリーも15〜16世紀のものとは思えない程、綺麗な色彩を残しています。
また、当時の人々の服装や庭園に見られる自然など、事細かに織られたタピスリーはまるで美しいジュエリーのよう。
当時、お城の壁にかけられたタピスリーは絵画や彫刻よりも価値が高いとされ財産のひとつでもありましたが、石造りの建物の冬の寒さをしのぐ為のものでもありました。
2階建ての建物は天井が高く、ゆったりと作品を鑑賞できます。
スペイン大航海時代のタピスリーには、帆をはためかせる船出の様子が織られて・・・15世紀末、ここからコロンブスが新大陸アメリカを目指したのでしょうね!
ダイナミックな構図に、まだ見ぬ大陸への希望と、もしかしたら大陸なんて夢かもしれないという不安を抱きながら生きて帰って来れるかどうか判らない船出に人生をかけた当時の冒険者達に思いを馳せました。
どのタピスリーも数メートルの大きな織物なのに、こまやかに動物や花々、このように水に触れる足を鮮明に表現した職人技には感嘆の声しかでません・・・
知っている人が少ないのか、観客もまばらで静かに過ごしたい日にはぴったりの美術館です。
= 国立ゴブラン・ギャラリー美術館 =
「 Manufacture des Gobelins:Galerie des Gobelins 」
42, avenue des Gobelins 75013, Paris
tel:(33)1 44 08 53 49
メトロ:Les Gobelins 7番線
開館時間:11時~18時(月曜休館)
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7月のパリは猛暑でした。
30度を超える日中、夜も25度を下らない日が続きました。
普通の家にはクーラーはありません。
私も3年前の猛暑の時に買った扇風機を取り出し、せっせと冷たい中庭の空気を部屋へ送っていました。
街では噴水で水浴びをしている人や、ペットボトルを持ち歩く人、暑そうな犬・・・パリでは冷房設備を備えているお店は少なく、3年前に耐えかねてデパートに入って涼んだことを思い出しました。
猛暑警報がでますと、沢山水分をとるように、暑くてもきちんと食べるように、とテレビやラジオの政府公報では注意を呼びかける位、フランス人は暑さ対策に慣れていません。
以前の時は、対策が遅れて沢山の老人や病弱の方々が亡くなりましたので、最近はちょっと暑い日があるとすぐに呼びかけるようになりました。
4、5日猛暑が続いた後、突然空が真っ黒になったかと思うと、豪雨と雷が一晩中続き、窓から見る道路には川のように水が流れていました。
その日以降、からっと晴れた夏に戻り、ここ1週間は過ごしやすくなりました。
そうなると朝晩はストールや上着が必要なくらい冷えるのですが、かえってパリらしい夏になってほっとしています。
それにしてもここ数年、今までになかったような猛暑の日が増えているような気がします。
8月はどんな夏になるやら・・・今までは暖房を入れた夏もありましたから。
・------ murmure "ミュウミュウ" とはフランス語で "つぶやき" のこと ------・
マリールイーズからのパリ便り Vol.28 2010.7.21